前号にお書きになった三浦理事長がルネ・クレールの『パリの屋根の下』に魅せられたのが中学三年生の秋だというのには、改めて驚かされた。
なにせ同じ年頃の私が観ていた映画といえば、加山雄三の若大将シリーズ。
戦時下の中学生が哲学にあこがれフランス映画に没入していたのに比べ、高度経済成長期の中学生のなんとお気楽なこと。
わたしたち年代のオジサンたちが学力低下だモラル低下だと「今の若い者は・・・」を振り回す昨今だが、自分たちだって上の世代から見れば頼りない若者だったのである。
そんなわたしが居ずまいを正して映画を観るようになったきっかけが、 高校へ進む春に出会ったこの作品である。黒沢年男と酒井和歌子。
当時売り出しの二人が共演する青春ラブストーリーを、気鋭の新進・恩地日出夫監督が社会性を考えさせるほど重量感あるドラマに仕立てている。
加山雄三の『さらばモスクワ愚連隊』をお目当てで行って、この併映作に心奪われた。
そこから、わたしと映画の本格的なつきあいは始まる。
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