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2018年5月19日

第136回 「まあだだよ」

おはなし:俳優  香川 京子  さん  
インタビュアー:元キネマ旬報編集長  植草 信和  さん

 初夏の気配を感じた5月19日(土)、「監名会 第136回」が開催された。国立映画アーカイブ(京橋•旧フィルムセンター)の小ホール。上映作品は黒澤明監督の『まあだだよ』(1993年)。随筆家・内田百閧フ随筆を原案に、百閧フ日常とその門下生たちとの交流が描かれる。黒澤監督の監督生活50周年・通算30作目となる記念作かつ遺作でもある。
 作家活動に専念するため学校を去ることになった「先生」を、学生たちが『仰げば尊し』を歌って送り出す場面から始まる。「先生」を慕う門下生たちは、職を辞した「先生」と「奥さん」の家に集い、酒を酌み交わす。空襲で家を失ったり愛猫が失踪するなどの先生の日常に寄り添う門下生たち。後年、門下生たちは先生の健康長寿の祝いに「摩阿陀会」という催しを開く。なかなか死にそうにない先生に門下生たちが「まあだかい?」と訊ね、「まあだだよ!」と先生が返礼するのが恒例行事となる。
 上映後のゲストに先生の「奥さん」を演じられた香川京子さん(第47回、第103回にゲストとしてご参加)、インタビュアーに元キネマ旬報編集長で映画ジャーナリストの植草信和さん(第118回、第122回、第125回、第130回にインタビュアーとしてご参加)をお迎えした。司会進行は俳優の竹内千笑さん。

 日本映画の黄金期から今日まで半世紀にわたり数々の名作に出演されてきた香川さん。フリーで活動されていたため映画会社の枠を越え、本作の黒澤明をはじめ成瀬巳喜男、溝口健二、小津安二郎など多くの名監督の下で活躍し、「監督荒らし」の異名も。香川さんは25年前の本作撮影時と変わらぬ微笑みを浮かべ、クリーム色のスーツに黒いパンプスでご登壇。
妥協を許さない厳しい演出で知られる黒澤監督が、本作での香川さんの演技の見事さに「僕は香川さんには何も演出していない」と語られたことを植草さんが紹介すると、香川さんも「黒澤監督は『こうして』とは全くおっしゃらなかったです」。
戦争で家を焼け出された先生と奥さんが三畳一間の小屋に移り住み、訪れた学生達と語らう宴席のシーンでは、「この辺で台詞を言いながら、小鉢を出してくれるといいんだけど」と簡単な説明のみ。香川さんによると「『奥さん』役は陰で全てを仕切る主婦。私も家で普通の主婦をしていたので、細かなご指示がなくても段取りは分かります。でも、先生と教え子の会話を絶えず耳で聞きながら、小鉢を出すちょうどいいタイミングを逆算するのは大変で、自分なりにいろいろ考えました」。「香川さんに『お任せ』だったのですね!」と感嘆する植草さん。

 三畳間の小屋で暮らす日々は、小屋の周辺での紅葉の彩り、降り積もる雪、春の新緑など四季の移ろいが印象的だ。撮影前に黒澤監督から「あそこはラブシーンだからね」と伝えられ、いかに演じるか悩んだという香川さん。「二人は結婚して20年も経つ夫婦。じっと二人で黙って座っていても『夫婦愛』というものが感じられないといけないのだろうなと」。そんな時、先生役の松村達雄さんの存在は大きかったという。「本作前にTVドラマで共演していた松村さんは、型にはまらない自由な役者さん。何でも受け止めてくれました。松村さんのお陰であの『奥さん』の役ができたと思います」。

 本作で日本アカデミー賞、批評家大賞、ブルーリボン賞など多数受賞した香川さん。その秘訣は、黒澤監督の一言『とにかく自然にやってください』で、肩の力が抜けたからとも。黒澤監督の『赤ひげ』(1965)にご出演後の香川さんは、本作(1993年)で久々のオファーを受けた。前者は異常な環境の中の狂女の役で、後者は普通の奥さんという役どころ。久しぶりの黒澤組での仕事に喜びを感じるとともに、自身の役柄も含めこれまでとは毛色の違う作品を監督がどう撮るかという点にも惹かれたという。

 香川さんは、今年3月に女優人生70周年記念の語りおろし『凛たる人生 映画女優 香川京子』を出版。FIAF賞(国際フィルム・アーカイブ連盟の授与する賞)を受賞されたことで、今後は昔の映画の「語り部」としての任務も担って行きたいとの宣言が場内を沸かせ、幕となった。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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