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2017年11月4日

第134回 「わらびのこう 蕨野行」

おはなし:映画監督  恩地日出夫  さん  
インタビュアー:元黒澤組プロダクションマネージャー  野上 照代  さん

 各地で秋の気配の深まりを感じた11月4日(土)、「監名会第134回」が開催された。会場は恒例のフィルムセンター(京橋)の小ホール。上映作品は恩地日出夫監督の『わらびのこう 蕨野行』(2003年)。芥川賞作家・村田喜代子の同名小説の映画化。構想から8年、山形で1年に及ぶ長期ロケを敢行した渾身の力作である。NPO「日本の原風景を映像で考える会」とタイムズインの製作。物語の舞台は、江戸時代のとある村。村には隠された掟がある。60歳を迎えた者は村を出て、蕨野(わらびの)と呼ばれる人里離れた原野に移り住まねばならない。老人たちはそこから里へ下り、村の仕事を手伝うことでのみ、その日の糧を得る。数年に一度必ず訪れる凶作を乗り切り、若い者の食料を確保するために定められた昔からの知恵なのだ。その年、蕨野に入った老人は8人。その中の一人、レン(市原悦子)と、レンの息子に嫁いで間もない年若い嫁ヌイ(清水美那)との交流を中心に、人間の生と死が描かれる。
 上映後のゲストは、本作でメガホンをとった恩地監督(第33回、第94回にゲストでご参加)。インタビュアーは黒澤組のスクリプターとして活躍され、日本の映画界の歴史を熟知されている野上照代さん(第106回、第122回にゲストでご参加)。幾度もタッグを組んできたお二人は、息の合ったおしゃべりを繰り広げ、会場は笑いの渦に包まれた。司会進行は俳優の竹内千笑さん。
 作中で蕨野へ入った老人達になぞらえ、お二人はご自身たちを「蕨野衆」「ダブルわらび」と呼ぶ90歳(野上さん)と84歳(恩地監督)。野上さんは本作を「恩地さんの作品の中では、異色の作品。際立っていい作品」。描かれていたのは「『人間の原点』。生きることは、食べること、死ぬこと。映像でみせるのは難しいのに、よく撮ったね」と大絶賛。恩地さんも「資金がなかったが、いろいろな人が助けてくれた」と振り返った。この日の客席には、当時の農林水産省の金蔵(こんぞう)さん、東映アニメーション社長だった泊懋(とまり)さんなど、かつての協力者の姿も。また、野上さんが「構図も色も素晴らしい」と賛辞を送った撮影担当の上田さんも、舞台からの呼びかけに客席で応じ、会場は更なる賑いに。本作の語りは、独特の文語体。原作者の村田さんが、九州の地方の方言に、宮中などで使う言葉「雅後(がご)」を組み合わせて創作した言葉だという。難解な印象に、各方面から言葉だけは変えるようにと助言された恩地監督だが、敢えてこの言葉のまま制作を続行。野上さんも「あの言葉だから、こそ味が出た」。原作を読んだ恩地監督が女優の北林谷栄さんに感動を伝えたところ、北林さんが自身の劇団民芸で朗読劇にまとめ、その舞台を観劇した恩地監督が感銘を受けて、改めて原作映画化を決意されたというエピソードも披露された。
 恩地監督は、日本映画界のヌーヴェル ヴァーグ旋風の中、東宝から華々しくデビューし、10年間、青春映画など劇映画を制作。その後、大阪万博等で岩波映画スタッフとのドキュメンタリー体験から刺激を受け、テレビに進出後の約10年は、ドラマとドキュメンタリーの双方の制作に打ち込んだ。その集大成が、当時、大きな話題を集め、多くの賞を受賞した『戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件』(1979年)。ドラマとドキュメンタリーの両方で活躍した恩地監督ご自身の「『わらびのこう』はドキュメンタリーのつもりで撮った」という言葉に対し、野上さんも「この作品はどの系譜にも入らない。強いて言えばドキュメンタリー」。お話は究極の映画論へ。野上さんが「(映画は)究極はドキュメンタリー。黒澤さんもドキュメンタリーを撮りたかった。リアリティを求めるとそうなる。プロの役者ではなく、素人を使うのもそういう理由」と言えば、恩地監督も「そう、役者もやはり技術ではない。存在感。この作品は、素人(新人 清水)とベテラン(市原)の組み合わせでうまく行ったのだと思う」。
 制作当時、60歳だった恩地監督は「還暦だから、最後かもという気で作った」というものの、現在も84歳にして現役。「蕨野衆」として、今日も頼もしく活躍される恩地監督と野上さんから、日本映画の変遷と豊穣を学びながら、和やかに上映会は閉幕した。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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