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2016年5月28日
第128回 「忍ぶ川」
おはなし:俳優  栗原小巻  さん  
インタビュアー:映画評論家 寺脇 研  さん

 早くも夏を思わせる陽気となった5月28日(土)、京橋のフィルムセンター小ホールで「監名会」第128回が開催された。上映作品は、熊井啓監督の『忍ぶ川』(1972年)。原作は1960年に発表され、同年、第44回芥川賞を受賞した三浦哲郎氏の同名小説。
 物語は、料亭"忍ぶ川"を舞台に、大学生の哲郎と看板娘の志乃との馴れ初めから始まる。互いに生い立ちや家族の暗い過去など複雑な事情を抱えながらも、惹かれ合う男女の純愛が描かれる。昭和の情緒が溢れる風景を背景にそれぞれの心情が語られ、哲郎の故郷である雪深い東北の地にて、家族でささやかな祝言を挙げるまでが綴られる。
 上映後は、主演された栗原小巻さんをゲストにお迎えし、映画評論家の寺脇研さんがお話を伺った。進行は俳優の吉沢果子さん。当会の二年越しの念願が叶い、上映会にお越しいただいた栗原さんは、ご自身の華やかさが際立つ、モノトーンの千鳥格子柄ジャッケットに黒のタイトスカートというシックな装いでご登壇。たおやかな立ち姿と清楚な微笑みという、本作主演当時と変わらない栗原さんに、インタビュアーの寺脇さんをはじめ会場全体が魅了された。

 栗原さんは原作を「愛深く美しい小説」と形容し、「心を打つ透明感」と「生き方に力強さ」があったと語られると、寺脇さんも東北の気風や戦後の暗い空気の中から「明るい未来が作られていく」原作の味わいが、映画でもよく表現されているとご指摘。なお、本作への栗原さんのご出演は、原作の三浦先生のご推薦で、その旨をプロデューサーから耳にした栗原さんは、強い責任感を覚えたという。
また、本作は幾度も映画化の話が立ち消え、紆余曲折の末にようやく実現した、熊井監督の渾身の作。(熊井監督は残念ながら2007年に鬼籍に入られたが、当会には第14回「日本列島」、第87回「日本の黒い夏[冤罪]」にゲストとしてご参加いただいたご縁がある。)制作当時、既にカラー・ワイドが主体の時代にも関わらず、あえてモノクロ•スタンダードを選択したのは、東北の雪がカラーではただ白く明るい映像になってしまうという、監督の強いこだわりからだという。そのお陰で、東京が舞台である作品前半ではカラーよりも色を感じさせる効果を生み出し、物語終盤には主演の二人が初夜の夜明けに雪の中の馬橇を眺める美しい伝説的なシーンへと結実した。
常に妥協を許さず本物志向を貫いた熊井監督。当時のロケは「隠し撮り」が主流だったが、都電が少し予定画面からずれて停車した時は都電を引き返させて撮り直し、東北の撮影でも物語設定と違う地名の看板がほんのわずかに映り込んだ際には蒸気機関車も前の駅まで戻らせて撮り直し、しかもどちらも乗客を乗せたまま、撮影をやり直させた徹底ぶり。当時、熊井監督は日活からフリーへ転身、東宝と俳優座と組んだ勝負作でもあり、自身の大病を克服しながら制作するというただならぬ気迫が伺える。
こうした数々のエピソードを披露してくださった栗原さん。どの場面でも監督が厳しい演出をされ、一年を通し季節ごとにじっくり撮影し、スタッフとキャストが「思いはひとつ」という気持ちで作り上げたことで、完成した時は感動もひとしおだったという。俳優にとって作品は人生の一部。栗原さんにとっても、本作は「人生の中で大事な作品」だという。
一方、寺脇さんは今回、改めて本作を鑑賞したことで、公開当時は本作をラブストーリーと捉えていたものの、そこにとどまらず、東京オリンピック開催前の昭和30年代の日本の風俗、近現代史の中の大きな一齣を映し出し、「昔の東京、昔の日本」を見事に映像に残した作品だと、改めて感慨深く感じたとのこと。また、撮影の環境や時期、素晴らしいキャスティングなど、すべてにおける絶妙なタイミングに「名作が出来るときには符合があう」と締めくくられた。

 現在の栗原さんは、舞台のお仕事へと活躍の場を広げられ、この後も、東京から地方へと公演予定が立て続いているという。「いい映画を観て、いいお話を聞けることが、幸せ」という寺脇さんのお言葉通り、栗原さんからの「映画という時を超えて届けられる」贈り物と、栗原さんご自身が今も体現されている日本女性の美を、直に体感する幸せを噛み締めながら、今回の監名会は閉幕となった。

(文:菅原英理子 写真:写真:岡村武則)





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